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東京地方裁判所 昭和61年(ワ)4280号 判決

原告

松島正男こと方元正

ほか一名

被告

吉田哲夫

主文

一  被告は原告ら各自に対し、金四九四万二七〇一円及び内金四四九万二七〇一円に対する昭和五八年六月二六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを四分し、その三を原告らの、その余を被告の各負担とする。

四  この判決は第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告ら各自に対し、金二〇七九万三九八九円及び内金一八九〇万三九八九円に対する昭和五八年六月二六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五八年六月二五日午後四時ころ

(二) 場所 東京都豊島区高松二丁目二三番地先路上(以下「本件事故現場」という。)

(三) 加害車 普通乗用自動車(品川五〇い九三三五、以下「加害車」という。)

運転者 被告

(四) 被害車 原動機付自転車(豊島区か六八一三、以下「被害車」という。)

運転者 林龍珍(以下「林」という。)

(五) 事故態様 加害車と被害車が正面衝突したもの(以下「本件事故」という。)

2  責任原因

(一) 被告は、加害車の所有者である訴外玉城幸夫から加害車を借り受け、これを自己のために運行の用に供していた者であるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、原告らに対し、本件事故より生じた後記損害を賠償する責任がある。

(二) 被告は、本件事故現場付近の道路が中央線による車線区分のない道路幅員約五・八メートルの見通しの悪いカーブであつたのであるから加害車を運転して進行するに当たつては、対向車と安全にすれ違うことができるようにあらかじめ左側に寄り、対向車の動静に注意して徐行すべき注意義務があるのにこれを怠り、時速約四〇キロメートルで進行し、かつ、被害車が道路中央付近を進行してくるのを認めたにもかかわらず、被害車との衝突を回避するための措置を採らなかつた過失により本件事故を惹起させたものであるから、民法七〇九条により、原告らに対し、後記損害を賠償すべき責任がある。

3  林の受傷状況

林は、本件事故により胸部打撲、右足関節部挫創、両手掌及び右下腿打撲擦過傷の傷害を受け、通院加療を受けていたところ、昭和五八年七月一七日午前二時二〇分、胸腹部剥離性大動脈瘤の破裂による失血のため死亡した。

4  損害

(一)(1) 林の逸失利益 四〇三一万一三九八円

林は、本件事故当時満一六歳(高等学校在学中)の健康な男子であり、本件事故に遭遇しなければ満一八歳から満六七歳まで四九年間稼働して年額平均四〇七万六八〇〇円(昭和五九年度賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・学歴計・全年齢平均男子労働者の平均賃金によるもの)の収入を得られたはずのところ、本件事故により右得べかりし収入をすべて失い、右相当の損害を被つた。そこで、四〇パーセントの生活費の控除及びライプニツツ式計算法による年五分の割合による中間利息の控除を行つて、同人の死亡時における逸失利益の現価を算定すると、四〇三一万一三九八円となる。

(2) 相続

原告らは林の父母であり、林は大韓民国の国籍であるから、法例二五条、大韓民国民法一〇〇〇条一項二号、一〇〇九条一項により、右(1)の損害賠償請求権を各二分の一の割合で相続により取得した。

(二) 葬儀費用 七〇万円

原告らは、林の葬儀費用七〇万円を二分の一の割合で支出し、右相当の損害を被つた。

(三) 慰藉料 一三〇〇万円

原告らは、林を養育して高校に入学させ、その将来を楽しみにしていたところ、本件事故により同人を失い多大の精神的苦痛を被つたものであるところ、原告らの右苦痛を慰藉するには各六五〇万円をもつてするのが相当である。

(四) 弁護士費用 五四〇万円

原告らは、弁護士である原告ら訴訟代理人に本件訴訟の提起と追行を委任し、相当額の報酬等弁護士費用の支払を約束したが、このうち本件事故と因果関係のある損害は合計五四〇万円(原告ら各自につき二七〇万円)である。

(五) 過失相殺

本件事故の発生には林の過失も寄与しているが、右過失は三割を超えることはなく、したがつて、前記損害金合計五九四一万一三九八円(原告ら各自につき二九七〇万五六九九円)から三割を減額すると四一五八万七九七八円(原告ら各自につき二〇七九万三九八九円)となる。

よつて、原告らは各自、被告に対し、本件事故による損害賠償として、二〇七九万三九八九円及び弁護士費用を除く各一八九〇万三九八九円に対する本件事故の日の翌日である昭和五八年六月二六日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(事故の発生)の事実は認める。ただし、(五)(事故態様)に関し、林自身は加害車に衝突していない。

2  同2(責任原因)(一)の主張のうち、被告が本件事故による損害につき賠償責任を負うことは争うが、その余の事実は認める。(二)の事実は否認する。

3  同3(林の受傷状況)の事実のうち、林が本件事故により右足関節部挫創、両手掌及び右下腿打撲擦過傷の傷害を受け通院加療をしていたこと、昭和五八年七月一七日午前二時二〇分ころ胸腹部剥離性大動脈瘤の破裂により死亡したことは認めるが、胸部打撲の受傷及び本件事故と同人の死亡との間の因果関係は否認する。林の死亡原因である胸腹部剥離性大動脈瘤の破裂は、胸部打撲を前提とするものであるが、同人が本件事故により右傷害を受けた事実はなく、したがつて、本件事故と同人の死亡との間には因果関係はないというべきである。

4  同4(損害)は、(一)(1)(逸失利益)の事実は争い、(2)のうち原告らが林の相続人であること及びその相続割合は認めるが、本件事故に基づく損害賠償請求権を相続したとの点は争い、(二)(葬儀費用)、(三)(慰藉料)及び(四)(弁護士費用)の各主張事実は不知ないし争う。(五)(過失相殺)については、林に過失があることは認めるが、その割合が三割にとどまるとする点は争う。後記のとおり、本件事故は林の全面的過失によるものである。

三  抗弁(免責)

被告は、本件事故現場付近の道路が幅員約五メートルであるうえ、加害車の進行方向からみてなだらかな上り坂で右にゆるくカーブして見通しもあまり良くなかつたので、加害車を時速約二〇キロメートルに減速し、対向車と安全にすれ違うことができるように左側に寄せながら進行したところ、前方約三〇メートルの地点に対向してくる被害車を発見したが、安全にすれ違うことができるものと考えてそのまま進行を続けたものである。ところが、被害車は時速五〇キロメートル以上の速度で道路の中央付近にふくらんで進行してきたため、被告は危険を感じ急制動の措置を採つて停止したが、林は衝突を避けようとして急制動の措置をとつたため、加害車の前方約五メートルの地点で横転し、被害車から投げ出された(被害車は滑走して加害車と衝突した。)。

このように、本件事故は専ら林の過失によつて惹起されたものであり、被告は事故回避のために万全の措置を尽くしたものであるから何ら過失はなく、また加害車には構造上の欠陥、機能上の障害もない。したがつて、被告は、自賠法三条但書により、本件事故につき免責されるべきである。

四  抗弁に対する認否

争う。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  事故の発生

請求原因1(事故の発生)の事実は、林自身の加害車への衝突の有無を除き当事者間に争いがない。

二  被告の責任

被告が加害車の運行供用者(自賠法三条)であることは当事者間に争いがないから、自賠法三条但書所定の事由がない限り、被告は本件事故により生じた損害を賠償すべき責任があるものというべきところ、被告は同条但書に基づき免責を主張するので判断する。

1  成立に争いのない甲第一号証、原本の存在・成立に争いがない同第一五号証、弁論の全趣旨により原本の存在・成立が認められる同第一六号証の一ないし四、弁論の全趣旨により昭和五九年二月ころの本件事故現場付近を撮影した写真の写しであると認められる同第一六号証の五の一ないし七、弁論の全趣旨により本件事故直後の被害車を撮影した写真の写しであると認められる同第一六号証の五のイないしニ及び被告本人尋問の結果により真正に成立したものであると認められる乙第六号証並びに原告松島道子こと金道子(以下「原告金道子」という。)及び被告本人尋問の各結果(後者につき後記措信しない部分を除く。)を総合すると、次の事実を認めることができ、被告本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(一)  本件事故現場付近の道路は、要町方面から千川町方面に通ずる全幅員約五・八メートルのアスフアルト舗装の道路で、中央線による車線区分はなく、幅員約四・二メートルの車道部分の両側に白線で区分された幅員約〇・八メートルの路側帯が設けられている。

右道路は、本件事故現場付近から千川町方面に向かつて勾配一〇〇分の三ないし四程度でゆるやかに右側にカーブしながら上り坂(以下「本件カーブ」ということがある。)となつており、本件事故現場付近から要町方面への道路の見通しは約三〇メートルとあまり良くなく、最高速度は時速三〇キロメートルに制限されている。

(二)  被告は、加害車を運転して要町方面から千川町方面に向かつて時速約三〇ないし四〇キロメートルで進行していたところ、本件事故現場付近に差しかかり、見通しが悪いことから、時速約二〇ないし二五キロメートルに減速し、道路左側に寄せて進行した。その直後、被告は、約三〇メートル前方に時速約五〇キロメートルを超える速度で本件カーブを曲がり車道の中央部分を越えて加害車の道路前方に接近してくる被害車を発見し、その接近の態様に危険を感じたものの、被害車が原動機付自転車であつたため、同車において容易に進路を修正し、衝突等することなくすれ違うことができるであろうと速断してそのまま進行した。ところが、被害車は減速も進路修正もしないまま接近を続けたため、同車が約八メートル前方に至つたころ、被告は衝突の危険を感じて急制動の措置を採つたが、停止するかしないかの状態で被害車と衝突した。右措置を採つた時点では、被告の進行方向左側の路側帯にはそれに沿つてベンチが置かれ老人が二人座つていたため、被告はとつさに左側路側帯に乗り入れて避譲措置を採ることができなかつた。なお、被告が被害車を発見してから衝突までの時間は、わずか二、三秒である。

(三)  他方林は、被害車を運転し千川町方面から要町方面に向けて前記高速度で本件道路中央を越え、大きくふくらんだまま進行し、進路修正もしないまま加害車の前方五ないし八メートルに至つて急制動の措置を採つたため、後輪がスリツプして進行方向左側に横転しかけながらほぼ停止状態の加害車の前部バンパーの右側部分に衝突した。林は、右衝突とほぼ同時に道路に投げ出された。

(四)  両車の衝突位置は、加害車の進行道路の路側帯の左側端から道路中央に向かつて約二・三五メートルの地点であり、道路中央からみると加害車の進路側に約〇・五五メートル入り込んだ地点である。なお、路面には被害車のスリツプ痕が約五・五メートル残されていたが、加害車のスリツプ痕はない。

(五)  本件事故により、被害車は車体の前部が後方に押し込まれるように曲がり、ハンドル上にある左側バツクミラーが破損した。加害車も前部が破損し、廃車処分された。

2  右認定事実に基づき考察するに、林は、中央線による車線区分がないうえ、見通しの悪い下り坂の本件カーブに差しかかつたのであるから、対向車を予測し、道路左側に進路を取り、制限速度以下に減速する等安全運転を行うべき注意義務があつたにもかかわらず、前記認定のとおり制限速度を大幅に上回る高速度で本件カーブに進入したため、対向車の進路側に大きくふくらんで走行し、適切な回避措置を採ることができないまま本件事故に至つたものと推認され、本件事故は林の右重大な過失により惹起されたものであることは明らかというべきである。

他方、被告の運転操作についてみるに、被告も林と同様の運転上の注意義務を負つていたものであるが、被告は、被害車の走行のごとき危険な運転を予想して運転すべき義務はないことを考慮すれば、運転者に要求される基本的な注意義務は一応これを尽くしていたものということができ、被告が採つた最終的な事故回避措置もその時点の四囲の道路状況に照らしやむをえないものであつたといえなくもない。しかしながら、自動車の運転手は、対向車等他車の危険な運転行為に直面した場合であつても、可能な限りの危険回避の措置を講ずべき義務があることもまたいうまでもないところである。かかる観点からなお検討を加えると、被告は最初に被害車を前方約三〇メートルの地点に発見した際、同車の速度、進路等からそのまま同車が接近すれば衝突等の危険があることを感じたというのであるから、右時点で直ちに一層の減速を行い、余裕をもつて左側路側帯へ避譲できるよう措置を講じておけば、本件事故の発生を未然に防止することが可能であり、また、かかる措置を採ることは可能であつたと推認される。そうすると、林の無謀運転、被告が一応の注意義務を尽くしていること及び四囲の道路状況等を考慮してもなお、本件事故発生につき被告に何ら過失がなかつたとは認め難いものといわなければならない。

したがつて、その余について判断するまでもなく、被告の免責の抗弁は理由がなく、被告は、自賠法三条により、原告らの後記損害を賠償すべき責任があるというべきである。

三  因果関係

林が本件事故により右足関節部挫創、両手掌及び右下腿打撲擦過傷の傷害を受けたこと並びに右事故の日から二三日後の昭和五八年七月一七日に胸腹部剥離性大動脈瘤破裂により失血死したことは当事者間に争いがないところ、被告は本件事故と林の右死亡原因との間には因果関係がない旨主張するので判断する。

1  前記認定事実に成立に争いのない甲第四、第八ないし第一四号証、証人韓啓司の証言により真正に成立したものと認められる同第五号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる同第六、第七号証(後者は原本の存在とも)並びに右韓啓司の証言及び原告金道子本人尋問の結果によれば、以下の事実を認めることができ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  剥離性(又は解離性)大動脈瘤とは、大動脈壁(外から外膜、中膜、内膜の三層構造を成している。)の中膜が内外二層に剥離してその間(剥離腔)に血腫を形成する状態であり、その発生原因について今日の医学的知見によれば、梅毒、動脈硬化、先天性の血管異常疾患及び外傷が指摘されており、このうち外傷性による剥離性大動脈瘤は、更に、〈1〉外力により直接大動脈が損傷を受け(例えば肋骨骨折の際の骨片による刺傷等)ることにより生じる場合と、〈2〉高速移動中の身体に対する急激な減速応力による大動脈壁の損傷(大動脈には臓器との結合部分や血管の分岐点のような可能性の乏しい固定部分と右以外の可動部分とがあり、急激な減速応力のように大動脈を激しく動揺させる力が加えられた場合、可動性の乏しい固定部分が可動部分の動揺に対応できないことから固定部分に中膜変性等の損傷を生じる。)による場合とがあるとされている。

外傷性の場合、殊に血管が弾力に富む若年者の場合で損傷程度が軽微であると、血腫の形成速度が遅いため、損傷から形成瘤の破裂までには数週間から数か月が経過することもある。また、外傷性の剥離性大動脈瘤に対する医学的知見は近年漸く専門医の間に浸透し始めたものであり(発症自体が高速度交通機関の発達に伴う新しいものであり、医学分野の研究も遅れている。)、軽微な場合、初期段階で発見することは、患者の胸痛、背部痛等の主訴がない限り極めて困難である。

(二)  林は、本件事故により本件事故当日右足関節部挫創、両手掌及び右下腿打撲擦過傷の診断を受けたが、当夜腹痛を訴え、嘔吐したが、一たんこれも治まり、翌日医師の診断を受けた際も格別の外観上の異常を訴えることもなく、また医師が異常を認めることもなかつた。しかし、その後も家族にはしばしば腹痛、背部痛を訴え、食欲もなく元気のない状態が続いていた。そして、昭和五八年七月一六日の午後一一時過ぎころ、林は、友人と公園でビールを飲んでいた際(もつとも同人は平素と異なり、ほとんど口につけていない。)、背骨の激痛を訴えて倒れ、病院に搬送され、翌一七日午前二時過ぎに死亡した。

(三)  林の剖検の結果、同人には梅毒、動脈硬化の罹患は認められず、また、先天性血管異常を裏づける症状も見い出されなかつた。なお、同人の肝臓、腎臓等の臓器に出血が見られた。

2  右1に認定の事実及び前認定の本件事故の態様に基づき考察すれば、林の剥離性大動脈瘤の原因は、梅毒、動脈硬化又は先天性血管異常のいずれによるものでもなく、高速度で走行していた同人が、本件事故の際急激な減速応力を受け(これが衝突時によるものか、路上に投げ出された際によるものかを確定することは困難であるが、右一連の激しい身体の動きの際に前記減速応力が生じたと推認するのが合理的である。)、このために胸部大動脈に軽微な損傷を受け、これが三週間余をかけて徐々に血腫の形成をもたらし、更に血流に従つて腹部大動脈にまで伸展して行き、ついに破裂に至つたものと推認するのが相当であり、右推認を覆すに足りる証拠はない。

以上検討の結果によれば、本件事故と林の死亡(胸腹部剥離性大動脈瘤破裂による失血死)との間には因果関係があるものと認めるのが相当である。

四  損害について判断する。

1(一)  逸失利益 三二三二万七〇一一円

原告金道子本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、林は、本件事故当時満一六歳(高等学校在学中)の健康な男子であり、本件事故に遭遇しなければ高等学校卒業後の満一八歳から満六七歳まで四九年間稼働することが可能であると認められ、その間の所得を算定するに、本件事故当時の昭和五八年度賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・学歴計・全年齢平均男子労働者の平均賃金年額三九二万三三〇〇円を基礎に生活費として五〇パーセントを控除し、ライプニツツ式計算法による年五分の割合による中間利息の控除を行うのを相当と認め、同人の死亡時における逸失利益の現価を算定すると、次の計算式のとおり、三二三二万七〇一一円となる(一円未満切捨)。

三九二万三三〇〇円×(一-〇・五〇)×(一八・三三八九-一・八五九四)=三二三二万七〇一一円

(二)  相続

原告らが各二分の一の相続権を有することは当事者間に争いがないから、原告らは、林の右(一)の損害を各二分の一(一六一六万三五〇五円、一円未満切捨)ずつ相続により取得したものというべきである。

2  葬儀費用 六〇万円

原告金道子本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告らは林の葬儀費用として相当額の支払いをしたものと認められるところ、本件事故と相当因果関係のある損害としては、合計六〇万円(原告ら各自につき三〇万円)をもつて相当と認める。

3  慰藉料 一二〇〇万円

原告らと林との身分関係、同人の年齢その他本件にあらわれた諸般の事情を考慮すると、同人が死亡したことにより原告らが被つた精神的苦痛に対する慰藉料は、合計一二〇〇万円(原告ら各自につき六〇〇万円)をもつて相当と認める。

4  過失相殺

前記認定の本件事故の態様に照らすと、被告にも事故発生防止の観点から若干の過失がないとはいえないとしても、林の本件事故発生に対する寄与度は重大であり、原告らの前記損害額合計各二二四六万三五〇五円から過失相殺によりそれぞれ八割を減額し、損害額を各四四九万二七〇一円と認めるのが相当である。

5  弁護士費用 九〇万円

原告金道子本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告らは、本件事故に基づく損害賠償請求権につき被告から任意の弁済を受けられなかつたため、弁護士である原告ら訴訟代理人に本件訴訟の提起と追行を委任し、その費用及び報酬の支払を約束したことが認められるところ、本件訴訟の難易度、前示認容額、審理の経過、その他本件において認められる諸般の事情に鑑みると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は合計九〇万円(原告ら各自につき四五万円)と認めるのが相当である。

五  以上のとおりであるから、原告らの本訴各請求は、被告に対し各自四九四万二七〇一円及び弁護士費用を除く各四四九万二七〇一円に対する本件事故の日の翌日である昭和五八年六月二六日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度でそれぞれ理由があるからこれを正当として認容するが、その余はいずれも理由がないので失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、九三条一項を、仮執行の宣言について同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 柴田保幸 藤村啓 竹野下喜彦)

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